−科学文献と抗うつ薬SSRI広告の間における食い違い−
(キーワード:SSRI、パキシル、セロトニン仮説、DTCA、医薬品広告、非薬物療法)
注目情報11月号で、抗うつ薬パキシル(一般名:塩酸パロキセチン)の催奇形性の危険に関する情報をご紹介した。その塩酸パロキセチンも含めて、現在抗うつ薬として広く使われているSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)という一群の薬に関する広告宣伝の問題を取り上げた論文が『Public Library of Science (PLoS) Medicine 12月号』に掲載されているのでご紹介する(PLoS Med 2005;2(12):e392)。
論文は、「セロトニンとうつ:科学文献とSSRI広告の間における食い違い」と題して、うつ病の病因論におけるセロトニン仮説偏重の問題と、それを作り出しているSSRI広告宣伝のあり方に対する問題提起を行っている。
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論文著者は「うつ病および不安の病因にはまだ不明の点が多く、セロトニンは単に神経伝達物質の1つに過ぎない。にもかかわらず、脳内セロトニン量減少がうつ病に関与しているという、うつ病の『セロトニン仮説』がSSRI広告で強調され、結果としてうつ病治療のSSRI偏重を生み出している」としている。つまりうつ病は、セロトニンだけでなく様々な脳内化学物質が影響している可能性があるうえに、それぞれの生活歴やストレスフルな出来事などが影響して起こるものなのに、SSRI広告では、うつ病は脳内セロトニン量減少が原因であり、かつそれが全てであるかのような誤解を招く表現が用いられている、ということである。
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うつ病のセロトニン仮説を大前提としたSSRIの有効性の問題に関しては、論文では2つのメタアナリシスを紹介している。これらのメタアナリシスでは、プラセボ(本物の抗うつ薬と見かけ上はそっくりであるが、作用する成分は入っていない偽薬)でも、本物の抗うつ薬に対する効果の約80%が再現されていること、また製薬会社が資金提供した臨床試験のうち57%の試験では、本物の抗うつ薬による効果とプラセボによる効果との間で統計学的有意差は示されていない、という事実が明らかにされている。さらに、論文はコクラン・レビュー(世界中のランダム化比較試験を集めて、治療の効果をまとめたもの)を引用し、SSRIと従来から使われている三環系抗うつ薬と の間にも、効果において統計学的有意差はないことが示されていると指摘している。
SSRI広告については、企業によりセロトニン仮説を強調したマーケティングが行われている一方で、SSRIの有害性(副作用や薬からの離脱が困難になることなど)や薬物療法以外(認知行動療法など)の重要性などについては、十分な情報提供がなされていないことを問題としている。また、論文著者はDTCA(direct-to-consumer advertising;患者への直接広告)の問題にも触れ、セロトニン仮説を視覚に訴える図で表現している広告により、患者は脳内セロトニン量の不均衡を治療するための薬が必要だと信じ込まされているとしている。またこのことは、SSRI広告の作成者である製薬企業だけでなく、セロトニン仮説を広めている精神医学専門家や研究者、さらにはそれを患者に伝える処方医にも責任があるとし、医薬品情報が企業や一部の専門家からではなく、それらから独立した適切な情報源から、医療者や患者に伝えられることの重要性を指摘している。
SSRIについては、2005年2月の注目情報でご紹介したように、自殺企図リスクを高める可能性も指摘されている。不適切な医薬品広告は、患者が適切な医療を受けられないばかりか、時には命の明暗を分ける可能性もあるという重要な問題を含んでいる。今回ご紹介するPLoS Medicineの論文は、米国におけるSSRI広告の問題として書かれているが、抗うつ薬としてパキシルが広く宣伝され使われている日本にも共通した問題といえるだろう。なお、この論文は米国の総合医学情報配信サービスMedscapeでもとりあげられている(※1)。(Y)
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